内におけるコンタクトレンズ装用者は1,500万~1,800万人といわれ、10人に1人がコンタクトレンズを使用していると推定されます1)。今回は、コンタクトレンズの保存・管理や水道水を使用するリスクなどをご説明します。
コンタクトレンズを水道水で洗ってはいけません
私たちが飲料水として飲んでいる水は、法律で水質が定められています。水道水は塩素による消毒を行っているために残留塩素があり、蛇口での残留塩素濃度を0.1mg/L以上保つことが水道法で決められています2)。また塩素以外に、鉄、マグネシウム、カルシウムなどが微量に含まれているほか、微生物が含まれている可能性があるため、目の感染症を引き起こすことがあります3)。そのため、コンタクトレンズの洗浄・保存は、コンタクトレンズの添付文書や洗浄液・保存液などの説明書、主治医の指示に従って行うようにしましょう。
コンタクトレンズを水道水で保存するリスク
コンタクトレンズを洗浄する目的は、コンタクトレンズに付着した汚れを落とし、アカントアメーバ角膜炎などの感染症を防ぐ)。ソフトコンタクトレンズを水道水で保存した場合、浸透圧の差によるレンズの変形、水道水に含まれるカルシウムなどによる汚れ付着する可能性があります。
コンタクトレンズの汚れには、目から分泌される分泌物の汚れと外部からの汚れの2種類があります)。
目からの分泌物
角膜や結膜、涙腺からの分泌物にはタンパク質や脂質などが含まれます。中でもドライアイやアレルギー性結膜炎の症状が強い方は分泌物が多くなる傾向にあり、レンズ汚れがつきやすくなるといわれています。
外部からの汚れ
空気中のごみや花粉、手指に付着している汚れ、化粧品、たばこの煙などがあります。最近特に問題になっているのが化粧品による汚れです。コンタクトレンズの種類にかかわらず、化粧品などの油性成分がレンズの表面に付着した場合、異物感や乾燥感が増す原因になるとされています6)。
コンタクトレンズの正しい洗浄方法
コンタクトレンズの洗浄方法は、ハードレンズとソフトレンズで以下のように異なります。
ハードコンタクトレンズ
ハードコンタクトレンズは水分を含まない硬い素材のプラスチックでできています。酸素透過性が高く、酸素が目に届きやすい反面、素材の性質から傷や汚れがつきやすいことが特徴です。正しく洗浄・保存して使い続けた場合、2~3年ほど使用できると考えられています。
ハードコンタクトレンズの正しい洗浄方法は、次の通りです。
手をよく洗い流し、コンタクトレンズを外します。水道水または洗浄液ですすぎ、レンズをのせた手のひらに、十分な量の洗浄液を落とします。 指のはらの部分をレンズにあてて、同じ方向に指を往復させて、ゆっくり20〜30回こすり、レンズ表面に付着した汚れを取り除きます。レンズ内側は人差し指のはらを使い放射状にこすり洗いしてください。
水道水でよくすすぎ、十分に保存液を入れたレンズケースにレンズを保存します。再びコンタクトレンズを装用する際は、同様にこすり洗いとすすぎを行いましょう。
ソフトコンタクトレンズ
ソフトコンタクトレンズは、水分を含んだ柔らかい素材のプラスチックでできています。眼にしっかりフィットするため、ハードコンタクトレンズと比較すると、装用感がよいことが特徴です。ソフトコンタクトレンズには、使い捨てと定期的に交換するタイプがあり、1日使い捨てコンタクトレンズ以外は毎日洗浄・保存液で管理して使用します。
ソフトコンタクトレンズの洗浄は、以前は煮沸消毒が一般的でしたが、近年では専用の薬液によるコールド消毒が主流となっています。コールド洗浄には過酸化水素やポビドンヨードによる洗浄と、マルチパーパスソリューションによる洗浄があります。
過酸化水素消毒
過酸化水素は非常に強力な消毒効果がある一方、目にとっては劇薬です。そのため、消毒後に過酸化水素を中和する必要があり、中和を怠ったり不十分な場合には眼に炎症を起こす可能性があります。過酸化水素消毒にはさまざまな方法がありますので、説明書を十分に確認してから使用しましょう。
マルチパーパスソリューション(MPS)
MPSは、洗浄・すすぎ・保存・消毒をひとつの液ですべて行えます。煮沸消毒や過酸化水素消毒と比較して簡単にケアができるため、使用者が多いと考えられます。
手をよく洗い流し、レンズをMPSですすぎ、手のひらに置いたレンズに液を数滴垂らして、指のはらを使いレンズ両面をそれぞれ20秒程度こすり洗いします。コンタクトレンズの両面をMPSでよくすすぎ、十分な液を入れたレンズケースに一定時間以上つけておきます。再びコンタクトレンズをつける際は、十分にMPSですすぎましょう。レンズケースは水道水でよく洗った後、自然乾燥させてから使用してください。
コンタクトレンズを扱う際の注意事項[3]
ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズを使用・保管する際の注意点として、主に以下のようなことが考えられます。
水道水を使用しない
ハードコンタクトレンズの場合は、すすぎ時などに水道水または専用のすすぎ液を使用しますが、保存時には水道水を使用することはできません。またソフトコンタクトレンズの場合も水道水は使用できませんが、特にMPSで洗浄・保存する場合には水道水の使用は危険と考えられます。MPSはアカントアメーバという微生物の消毒に無効とされ、まれにアカントアメーバ角膜炎という重症の感染症を引き起こすことがあります。水道水は使用せず、必ず専用液で洗浄・保存しましょう。
レンズケースは毎日洗い、十分に乾かしてから使用する
コンタクトレンズの汚れを十分に落としても、レンズケースに汚れが付着している場合、菌やカビが繁殖する可能性があります。コンタクトレンズの種類を問わず、レンズケースは毎日清潔を保ちましょう。
定期的に眼科を受診して検査を受ける
現在使用中のコンタクトレンズが自分の眼に合っているか、眼に異常はないかなどを確認するために、3ヵ月に1度は定期検査を受けるようにしましょう。
水道水には塩素やマグネシウムなどのほか、微生物が含まれている可能性があるため、感染症を引き起こすリスクがあります。ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズともに、レンズを保存する際は必ず指定の専用液に保存してください。また今回は一般的なコンタクトレンズの洗浄・保存方法についてご説明しましたが、レンズのメーカーや種類などにより、方法が異なる場合があります。必ずコンタクトレンズの添付文書や専用液の説明書をよく読み、主治医の指示に従ってコンタクトレンズを装用・管理するようにしましょう。
【参考】
(1)日本眼科学会「コンタクトレンズ障害」
(2)東京都水道局 よくある質問 水道水の安全性について
(3)文部科学省 日本食品標準成分表 水道水
(4)日本コンタクトレンズ学会 一般の皆様へ ソフトコンタクトレンズ消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能
(5)日本コンタクトレンズ学会 一般の皆様へ 1. コンタクトレンズの汚れとキズ
(6)月山純子.コンタクトレンズセミナー コンタクトレンズ処方 さらなる一歩 47. コンタクトレンズの汚れ
(7)日本コンタクトレンズ学会 一般の皆様へ 正しいコンタクトレンズのケア
Comentários